清々しい小鳥の囀りで目が覚める。
実にいい目覚めだ、コイツが居なければ。
俺の腕を枕替わりに口の端から涎を垂らして無防備に寝る男。
なんでここにいるんだお前、と呟く。
別に昨日は誰も家に呼んじゃいないし、飲み会に参加したわけでもない。
バイトが終わって普通に家路につき夕飯を作って、風呂入って、寝た。何もしてない。
「おい」
「…んぅー」
「起きろ」
「…ぁ、ゆーちゃん、おはよー」
起きろ、と頬を軽く叩けばゆっくりと瞼を開けた。
まだ寝足りないのか瞬きを繰り返している。
俺にはそんな事関係ない。こいつが眠たかろうが、腹が減っていようが関係ない。
伸びた声でおはよーと挨拶したのはいいが、そのまままた眠りにつこうとする奴の頬を再度叩いて起こす。
「何また寝ようとしてんだよお前、帰れ」
「お前って名前じゃない」
「和早。気持ち悪い、早く俺の腕から離れろ痛い」
「……酷いし痛くない」
「酷くないし痛い」
「………ケチ」
暫しの沈黙を経て渋々といったように布団から這い出る背中を見送る。
その間は相変わらず無言で窓から聞こえる囀りだけが寝室を満たしていた。
小鳥の囀りにまた新たな眠気を引き出され、倒れるようにベッドに沈むと和早がこちらを見ているのが分かった。
「なんだよ、早く帰れ。人の安眠を邪魔するな」
「…ゆーちゃんがちゅーしてくれた帰る」
「……ハァ?」
「ゆーちゃんがちゅーしてくれるまで帰らないっ…!」
「なんで今キスする必要があるんだよ、お前の家隣だろ壁を隔てた隣だろすぐ帰れるじゃねーか」
涙目で帰らない、と睨みつけてくるけれど少しも怖くなんてない。
元々が優しそうな顔だからか威圧感がないのだ。
それにしても唐突過ぎる。
お互い一人暮らしでマンションの部屋も隣同士で、いつでも会えるのに。
それに人の安眠まで妨害してしたい事なのかそれは。
俺は布団から出ると一向に寝室から出て行こうとしない和早の背中を押して部屋の外へ押しやる。
その間も嫌々と首を振っている和早は駄々を捏ねる子供にしか見えない。
玄関まで押しやって行けば和早の靴を外へ放り出してやりそのまま帰れ、と帰宅を促す。
だがいつまでも俯いたまま外に出ようとしない。
面倒くさい事この上ない、俺はまだ寝るんだ。
「俺眠いんだよ」
「知ってる」
「じゃあ早く帰れ、安眠妨害するな」
暫く返事が返ってこないと思ったらいきなりこちらを振り返って
大粒の涙が溜まった眼でこちらを睨んできた。
何だ、と視線で訴えかけてやれば口を開く。
「…っ、ゆーちゃんっていっつもそうだよね!いっつも俺に怒ってばっか、帰れ帰れってさ!
ゆーちゃん俺の事嫌いでしょっ…別れてやるっ」
「…何キレてんのお前」
「だから…ッ、お前じゃないし!それにゆーちゃんが悪い…俺、帰る」
一息に大きな声で喚き散らすとスッキリしたらしく涙を拭って帰る、と一言。
面倒くさいヤツ。
「和早、こっちむけ」
「…なに」
「いいから」
「………んっ…」
後ろを振り向いた和早の細い腰を引き寄せると軽くキスを落とす。
目を見開いて驚くのがおもしろくって唇を離して笑う。
「…っ、ゆーちゃんのばかぁっ」
顔を真っ赤にして帰って行く和早の背中を見送る。
しっかり靴も持って帰ったようでよかった。
真っ赤な顔で馬鹿だなんてちっとも傷つきもしない。
―…寧ろ可愛いなんて思ったとかは一生言うつもりはないし、言えと言われても言ってやらない。
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おはようのチュウ。
甘々な朝とかいいですよね可愛いです。
そして詰め込み過ぎてドタバタしました;;
和早(カズサ)が言ってるゆーちゃんの本名は悠(ユウ)
2人とも大学三年生
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